かきごおりのお庭。

企画の小説とか書いていきます.

そんな美形の少年が。

エリファレット・マンスフィールドモーガン。彼との思い出を、よく思い出していた。

その仰々しい名前に違わぬ、美しい容姿。まだ第二次性徴が訪れていないのにも関わらず、彼の行動や言動の節々からにじみ出ていたその独特の雰囲気とカリスマ。僕は縁あって幼少期時代、恐らく最も純真であったであろう彼と、よく一緒に過ごしていた。まあ、彼がインヴァレリー魔法学校という高名な所に進学するまでの短い期間だったが。

正直言ってしまうと、彼と過ごす時間はとても有意義で、楽しかった。彼の周りには常に多くの人がいて、当時、明らかに年齢が離れていた僕は遠くから眺めていることが多かったが、ときたま彼が寄ってきて、遊びに誘ってきてくれたり、好きな飲み物を僕にねだるときの顔や仕草が、たまらなく愛おしかった。

そんな彼との思い出で、僕が永遠に忘れないだろうことが一つあった。昼食を食べて、彼の部屋で二人きりで過ごしていた時だったか。

「ズリエル兄さん。兄さんは将来、何かするとか、どこで働くとか、夢とか…決めてるのかい?」

「ん…ん?また難しいことを聞くねえ…お兄さんはなんでも適当だからなあ…意外とこの近くで喫茶店でもやってるかもね。寂れてそうだけど。…なんでまたそんなこと聞くの?宿題とか?」

この時の僕は、やりたい事がなかった。人と話すのは変わらず好きだったけど、知り合いからの紹介の仕事かなんかで食いつないでいる状態だった。他にもなんか…やってた気がするけど。

「あ、そうなんだ…。ん…とね。そのね。ズリエル兄さんに言いたい事があるんだ…。」

やけにたどたどしかった。好きな人ができたとかかな?とか思ってたかな。間違ってないんだけど、間違ってる。

「なにかな?なんだって言ってごらん。僕は怒らないしむしろ協力してあげるよ。度が過ぎてなければね!さあ来い!」

多分この感じがいけなかった。何でも受け入れてくれそうな雰囲気。

「ズリエル兄さん、あのね、その。将来、この僕と、けっ、けっこんしてください…。」

どんどん小さくなっていく声。その小さい声とは裏腹にとても重大な内容。余りに衝撃的な内容に僕はフリーズする。チャームのような魔法を食らわされたとか思う程に頭は思考を放棄した。しっかり聞こえたけれど、聞き返したくなった。目の前で絶世の美少年の子が顔を赤くしながらこんなこと20過ぎの男に言ってるんだぞ。何かの間違いだと思うだろう。

「…。」空気が。凍り付く。エリちゃんは気付いたら膝に乗ってたし、僕は固まってたし。…深呼吸して、切り出した。

「…うん、いいよ。エリちゃんが将来ちゃんとした魔法使いになれてたら、結婚してあげてもいい。約束。ね。」

そうして、約束をした。美少年の顔が明るくなったのを覚えている。なんだかんだ僕もちょろい男だったな。この後エリちゃんは舞い上がってて、僕も正直冷静じゃなかったと思う。外に出て色んな美味しいものを食べて、家まで彼を送って、家の前で別れた。

…そして、この日の翌日から僕の意識は変わりだす。将来彼に誇れる僕になろうと。あの約束を真剣に考えるのを馬鹿らしいと思う人もいるだろう。だけどあの目を見ては。あの真っ直ぐに輝く緋色の瞳を見てしまっては。断れるはずもなく、将来反故にしようなんて気も起らない。

 数年後に彼がハイランドのインヴァレリー魔法学校へ入学したと聞いた。あの子がちゃんとやっていけるかなんて馬鹿な心配もたくさんしたな。親か。

…彼のおかげで、僕は奮起できた。彼がいたから今の僕がいる。彼にはとても感謝している。また、会えたらいいな。彼の好きなミロでもまた出してあげよう。

 …思い出に浸るのももういいだろう。今は仕事中だし、さっさと公園を出て自分の研究室へ戻ろう……

 

 

…目の前から…のっしのっしと歩いてくる金髪の青年。いや、歩き自体は軽い…?いやそんなことどうでもいいだろう。そう思って歩幅を広くしてすれ違った少しあと。

「そこの君!」後ろから聞こえてくる声。さっきの子かな。

「はいはい、僕ですか?どうしました?」

「そう、あなた…美しい金髪をしているね。もしかしてと思い声をかけてしまったけれど…。」

「ありがとう。でもこれ伸びっぱなしなんですよ。もしかして?なんですか?」

「…ズリエル・アボット?」

「! ご名答!確かにそうですよ、僕がズリエルです。でもどうして?」

「おや、分からないのかい?まあ無理もない、ボクも最後に出会った時より随分と成長してしまったからね…。」

「???どこかでお会いしました…?もしよろしければお名前を…。」

「それは少し薄情じゃないかい?ボクだよ。エリファレット・マンスフィールドモーガンだよ!」

 

 

                 ………

 

本当には?って言葉が口から飛び出しかけた。いや…え?確かに面影あ…え…?あっほんとだ…顔だけトリミングするとすごい綺麗…。いやでもこの人ほんとに彼なの?ほんとに言ってる?縦にもすごい伸びてるけど横にもすごい伸びてない?僕てっきりもっとスマートな成長の仕方してると思ってたよ。あれ?ていうか財団の制服着てるよね?しかももこもこに隠れて見辛いけど調査員のマークだねそれ。嘘…予想以上に立派になってる…。待ってそれよりこんな再会の仕方でいいの?一応結婚するとかあったよね?

そんな感じで疑問の提示と沈黙を始めていたら。

「ふふ、ボクのあまりの成長に驚きを隠せないみたいだね…そうだろうとも、ボクも大人になっているのさ。でもズリエル兄さんは何も変わらないみたいだ…とても安心したよ。というかこんなところでズリエル兄さんとまた会えるなんて思ってもなかったよ。」

「ああうんそうだね…?よかったよ…。」

当たり障りのない事しか言えなくなった。ちょっと一回この場から離れさせてほしい。一日だけ考えを整理させてほしい。頼むエリファレット(?)君。

「おっと。兄さんに久しぶりに会えて、話したいこともたくさんあるんだけど今のボクには予定があってね。もう行かなきゃならないんだ。それじゃあまた。」

「うん…またね…。」

なんか箒に軽くまたがっていった…。やだ…軽快…。………午後の仕事まだしてないし数分の会話なのになんでこんな疲れてるんだ。もう帰ろうかな。僕甘めの紅茶とお菓子で落ち着きたいな。

…ていうかエリちゃん、結婚の話覚えてるのかな…?他に好きな人出来てたら、それはそれで嬉しいんだけど。うーん…また今度話そう。

                     

                            続きます。

 

 

 

もち坂おくらさんのエリファレット・マンスフィールドモーガン君をお借りしました。ありがとうございました。