かきごおりのお庭。

企画の小説とか書いていきます.

吸われて。舐めて。 (微性的表現アリ。注意。)

 

夜の10時くらい。こんな時間にロンドンの裏路地をぶらつくのには理由があって。古馴染みの子に野暮用で呼ばれた。月に何回か呼ばれるけど、何で今回はこんな所に呼ぶのか。家の同居者二人には``友達と飲みに行ってくる``なんて言い訳をした。まあ。間違ってないよ。僕は飲まないけど。ていうか。あいつまだ来ないのか。ここら辺でお願い~なんてあいまいな指示した癖にまだ…なんて思っていたら。

 

多数の気配。微小な翼を振る音。小さくはあるがそれは確かに群れのようなもので。いや群れというよりかは、超個体、なんて言った方が正しいんじゃないだろうか。なんせあれは、あいつ一つの意思で動いているのだから。感覚共有、だったかな…。

複数の蝙蝠が僕の方向に突っ込んでくる。だが一匹も僕にかすりもしない。なんでこう驚かせたがるかな。これで僕が驚くとでも思ってんのか。蝙蝠たちが僕を取り囲んだところで、一匹の蝙蝠が一人の青年に姿を変える。

「…あのさ。目立たないようにしてって言ったよね。いくら夜だからってさ…。」

「んー?だってこっちの方が探しやすいんだもん。ていうかズリエルだってもっと分かりやすい場所にいてよ。ていうか他に言うことないの?俺に。」

「見た目がうるさい。」

「はあ!?何それ!ひどくない!?」

桃色の長髪。長い睫毛にオッドアイ。そして多数の装飾品。ピアスとか、ピアスとか。裏路地を指定した癖になんでそんな派手なんだよ。目立ってしょうがないだろ。黙ってれば綺麗なのに。勿体ない…。

「早くしろレッドフォード。こちとら帰る場所があるんでね。」

「む。なにその引っかかる言い方。俺だって帰る場所ぐらいあるよ!ブレーメンと一緒のとこ住んでんだよ!ていうかその呼び方嫌い!前みたいにロゼって呼べばいいのに!」

「…ただの嫌がらせだよ。…ほら。首出してやっただろ。早く吸ってよ。」

「……ポーチの分ももらってくからね。貧血になっても知らないからね。」

そう言って、近づいてくる。さっさと終わらしてくれればいいのに。長ければ長いほど惜しくなってしまうのに。

壁を背に寄りかかられて。首の筋に冷たく硬い歯が当たる感触がして。皮膚を突き破り、中へ捻じ込まれてくる。

「……っく…。」

痛い。わざと痛くされてるな。だけど痛いだけならまだ耐えられる。厄介なのは、ここから。じわじわと、痛みは小気味いい感触へ変わっていく。小気味いい感触は、快楽へと。吸われるときの感じ方は個人差があるらしいが。他の人もこんな感じを味わうんだろうか。体の相性なんてのもあるんだろうか。……喜びが。僕に押し寄せて。僕を壊そうとする。密着しているから、ロゼの髪の毛から匂いが香る。それがまた、感覚を麻痺させていくようで。声が出てしまいそうになる。唇を噛んで堪える。瞼を閉じて。まだかまだかと終わりを待つ。…喜び?今、何を考えた?違う。決してそんなものではない。違う。僕がロゼに向ける感情はそんなものじゃない…。

血液を吸われ続ける中、自己嫌悪と快楽が入り混じる。訳が分からなくなってしまいそうだった。皮肉なものだ。人と関わることは好きなくせに。自分と向き合うとこんなにも不安定で、嫌悪を示してしまうだなんて。

 

牙が既に抜かれていることに気付いたのは、一瞬遅れてのことだった。

 

「終わったんだ?あれだけで良かったの?」

「うん。瓶の分もばっちり。ありがとね。」

「…ていうか何で今回は裏路地なのさ。人に見られるの嫌いじゃなかったか。僕も嫌だし。」

「別に。強いて言うなら気分?あの子たちに見張りさせてたし、多分人には見られてないんじゃない。」蝙蝠たちを指した。

「ふうん…。…これからはこういうとこよりちゃんと室内にしてよ。言ってくれれば場所だって僕がとるし。」

「マジで?じゃあ頼んだ!…もう11時前か。俺もう帰るね。じゃあまた来週の火曜日のこの時間くらいで!またね!」

ロゼはまた蝙蝠に姿を変えて、飛んで行った。僕の予定何も聞いていかなかったな…。まあ、僕が空ければいい話か。適当に街をぶらついて、帰ろう。

 

 

裏路地を出る前に、首の筋を指でさすった。指を見ると、血がついていた。血を舐めてから、裏路地を出た。血を吸われているときの僕の顔は、きっととんでもなくだらしなかっただろう。それを見られていないかだけが、気掛かりだった。

 

 

 

春宮さんのロゼール・レッドフォードさん、

名前のみですがかにかまさんのブレーメン・ノルマンさんをお借りしました。

ありがとうございました。