かきごおりのお庭。

企画の小説とか書いていきます.

真面目に観光、綺麗な彼と。

「んんんんん…もう朝かい…。」

伸びをしながらベッドから身体を起こす。僕の部屋は日当たりが良くて、太陽の日差しで毎回起きる。つってもロンドンは蒸気であんまり日が射さない…因みに僕は目覚ましで起きる派なんだけど。なんかカーテンの立て付け?というかなんというか、最後までちゃんと閉まらず、中心の部分が僅かに覆われないため、そこから仄暗い日差しが射してくる。その日差しが朝のある時間にドンピシャで僕の枕元に当たる。嫌がらせか。

くだらないことを考えながら居間へ。先に起きてきているエドマンド君とロイにおはようを言って、シャワーを浴びる。今日は休日だけど、人と会う予定があるんだよね。二人にはもう話してある。相手が相手なので帰らないなんてことはないだろうが、割と大変な予定なので帰りは遅くなるだろう。…ていうか正直この誘いに乗ってくること自体意外だったんだけど。割と僕と彼は似ているが、同族嫌悪的な…そういうとこもあるかなって勝手に思ってたんだ。でもティータイム中にちょっと誘ってみたら快諾。それでいいのか。いいだろうなあ彼なら…。まあ割と仲良くしたいとも思っていたし。これで彼とも仲良くなれたらいいなあ。

…オシャレした方がいいのかな。彼結構財団だとエレガントっていうかセクシーっていうか、とにかく目が惹かれる格好をしてるんだよね。まさかどこぞの同居人のようにダッサいTシャツを着こんで来たりはしないだろうし。…やばいな。彼と釣り合うようにするにはどうしようか…。ロゼとかロクさんに頼めばよかったかな…。

髪の毛を洗い終わって、乾かす。髪の毛長いと洗うのもちゃんと乾かすのも一苦労だ。そろそろ本当に切ってやろうかな。右目だけは視界をとれるようにセルフカットをしているがまあなんとも格好つかない。…また今度にしよう。

服…服…。オシャレには興味ある方だと思ってるけどなあ…。深読みを重ねてしまってもう考えが纏まらない。…もうこれでいいや。今日ついでに買いに行って一緒に選んでもらおう。

 

「じゃあ行ってくるね~!鍵とか頼んだよ!」

ロイとエドマンド君の気の抜けた返事をしっかりと聞いて、家を出る。蒸気飛行船が空中を闊歩する景色を見ながら待ち合わせ場所に向かう。誰だ今蒸気ふかしまくったやつ。ビビったわクソ。

 

着いたのはベッドフォード・スクエアっていう公園。大貌博物館から近い公園。他にも結構あった気がするんだけど、どこも広いし人が多くてね。さて、いるかな。…いた。やっぱり綺麗な人は目立つな。見つけやすい。プラチナブロンドの髪の毛、ロンドンの夕日のように淡く輝く橙色の瞳に綺麗に編まれた後ろ髪。黒い手袋と長丈のカーディガンに、首に巻かれたストールがお洒落。僕こんな人と今日は一緒に歩いていいんだねえ。

「こんにちは、ユール。もしかして待たせた?」

「こんにちは、ズリエル。そんなことないよ。私もさっき来たばかりさ。」

挨拶を済ませて何か渡してくるユール。手を開けばリボン型に包装された球体。…飴?

「ナニコレ。見るからに飴だし君が渡してくるんだから飴だろうけど。何味?」

「勿論飴だよ。さて何味だろうね?食べてみてからのお楽しみだよ。まあ今日のことの記念とでも思ってくれないか。」

「いや誘ったの僕なんだけども。記念ね。そんな言い方されたら食べないわけにはいかないねえ?じゃあ僕も今日のことの記念ってことで…何しようかな。歩きながら決めとくよ。」

飴を口に放り込んで、お互いに歩き出す。

「…この飴美味しいね?なんかミルキーって感じする。どこで買ったの?」

「ふふ。ズリエルなら好むと思ってたよ。その飴はね…。」

 

お喋りで友達好きの二人が一緒になると会話は途切れることはなく。どんな些細な事でも話題にできてしかもその会話が弾むからまたすごい。歩いて話すだけで楽しい時間ってのもなかなか幸せだな。そして楽しい時間はあっという間に過ぎるもので。

 

「まあド定番。ビック・ベン。ロンドン観光といえばこれですよね。」

そう、ロンドン観光。僕らが今してるのはロンドン観光。こっちに移ってから結構長いけどあんまり知らないなって思って。それでも一人で回るのは寂しいなって思って。そんで都合いいなと彼を誘ったわけ。超楽しいよ今。

「私たちの使う魔法が研究されるグレーター・ロンドン魔法大学が併設されているね。周りの建物や曇天模様の空の雰囲気と相まって仰々しい。…と。ちょうど鐘が鳴り始めたね。」

グレーター・ロンドン魔法大学、ね。その名前にあんまりいい思い出ないんだけれど。…鐘が鳴り続け、終わりに差し掛かる。低めの鐘の音が1回、2回、3回……………12回鳴った。最長の演奏時間。これが示すのはお昼時ってことだよ。

「もう12時?そんなに歩いたっけ…。なんか食べる?」

「君に任せるよ。私は私用のものがあるからね。」

そう言って鞄を揺らすユール。お菓子か。

「んんんんーーーーー…。…せっかくユールと一緒にいるんだし僕も今日はお菓子で済まそうかな。よしよし。お茶は僕が出すよ。スプーンもコップもあるし。」

「そうかい。嬉しいね。じゃあ早速公園を捜そうか。」

結構歩いたんだけど、実は僕たちの立っていたそこが既に公園だったようで。子供たちが駆け回って遊んでる時点で気づけば良かったなあ。二人してため息をついて笑いあう。そしてベンチに座ってユールのスコーンやチョコを、僕の出したココアと共にいただく。ユールはココアが好きだったからね。ちゃんと財団員の好みは覚えている。

ちょっと早いティータイムみたいなもんかな。案外悪くない。…いや本当にユールの持ってくるお菓子美味しいな。やばいなこれは。手も口も止まらない。こりゃお菓子が主食になるわけだな。僕もやってみようかな。………いや、ロイに止められる未来が見える。やめとこう。なーんてくだらない事また考えていたら。

 

「…ズリエル?聞いてもいいかな。」

「ん?何だい急に改まって。あ、恋愛相談とかなら聞かないよ。僕そういうの疎いからね!」」

「そんな事じゃないよ。大体そんな事君に話すわけないだろう。…いや、なんで私が誘われたのかな、って思ってね。ズリエルには他にも誘うに適する人がいると思ったんだ。どうしても気になってしまってね。」

「…ああ。そんな事。…気悪くしないでね?」

かくかくしかじか。

「…成程ね。なんとも嬉しい動機だった訳だ。今日の今までの君を見る限り別に誘ってくれなくても仲良くなれたと思うよ。…というか、それにしても同族、か。いやはや面白いことを考えるね。」

「え?なんでさ?あながち間違ってなくない?」

「まあ、分からないでもないが。…君と私は似ているところはあれど、同族とまでは行かないんじゃないかな。気も合うし話も合うが、私と君は確かに違うように思える。」

「そうかな…。うーん…意外と僕は、僕のこと知らないのかもね…。」

「…まあ。無理に今見つけるべきことでも、知るべきことでもないんじゃないかな。それより今はこの観光を楽しもうじゃないか。もう食べ終わったろう?さあ、片づけてまた街に繰り出そう。」

「…それもそうだね。じゃ、行こう。」

 

 

 

その後は色んな所へ行った。ウェストミンスター寺院テムズ川沿い、バッキンガム宮殿、エトセトラエトセトラ。どれもそれぞれに興味深い装飾や雰囲気があった。…まあでも、やっぱりビック・ベンが一番印象に残ってるかな。色んな意味でね。観光が終わったら、服を一緒に選んでもらった。なんかハイセンスだったよ。何言ってるか全然わかんなかったし。やっぱり僕にお洒落はちょっと厳しいものがあるな。

そのあとはまた他愛のない世間話をしたりして。近くのお店でまたお茶しながら小物を腹に収めて別れた。17時くらい。意外と早かったな…。なんか諸事情で早く帰らないといけなかったようで。夜は都合が合わないのかな?これから気をつけよう。…さて、これならわざわざ遅くなるなんて言う事なかったな。………あ…。ユールに今日の記念にすること忘れた………。……また誘えばいいかあ…。まあうん。今回の目標の仲良くなるってのは想像以上に達成できたし上々って感じかな?本当に楽しかった。素敵な休日をありがとう、ユール・ローゲン。また、お礼をしなきゃね。

 

ご機嫌な鼻歌交じりで、蒸気機関のざわめく音に旋律を与えながら。買った服の入った袋を小刻みに揺らして自宅に歩を進めた。今日はよく眠れそうだ。

 

東さんのユール・ローゲン君、名前だけですが塩水ソル子さんのロイ・エンフィールド君、アイさんのエドマンド・キャンベル君、春宮さんのロゼール・レッドフォード君、℃さんの六朗面さんをお借りしました。

ありがとうございました。