かきごおりのお庭。

企画の小説とか書いていきます.

遺されぬ本心。

映像は、まだ続いている。

 

 

 

男が去ったあと、画面はただその風景だけを写していた。時間だけが過ぎていき、刻々とその色を変えていく景色。そして、青と緑を写していた画面は、気づけば夜を映し出していた。

…そして、聴こえてくる足音。

「…………まだ、見てたの。」

聞きなれた、声。

「…続いた先に何も無かったらどうするの。ただの時間の無駄じゃない。…そうでもないかな。ここの景色綺麗だもんね。何なら僕の話を切り取って、ここだけ使って売ってもいいよ。許す。うん。」

語られる下らない内容。これも、いつもの事。

「…君も、物好きなもんだ。続く先に何があるか、怖がったりしないの?」

また現れる長い金髪の男。顔は、暗くよく分からない。

「ここからは、僕の、独り言。…本心のね。」

長椅子に座る男。前に出てきた時と違い、首をうなだれ、顔を見せようとはしない。

「…別に、昼に話したことが本心じゃ無い訳じゃない。…話してないことが、あるってだけさ。」

「…独り言だ。だから、聞かなくていい。聞き流すだけで、いい。なんなら、ここで映像を閉じたって。」

言い聞かせるように、静かに。それでも力強く。

「………ロゼが、インヴァレリーを卒業して、だいぶ経って。その後、財団に来たね。…ロゼを見た時、とんでもなく、どす黒い感情が、僕の中にあったんだよ。…本当に、汚い、ヘドロみたいな、そんなもの。…その姿は、なに?今まで誰から血を吸ったの?…どれだけの人と、交わった?……今あげたのは、ほんの一部。」

首は、うなだれたままだ。

「………言わなかったよ。言えなかったから。今更、どんな面してそんなこと言うのさ。…まあ。僕もロゼといなかった間、色々なことをしたから。自分を棚に上げてたこともあったよ。………とんだ、卑怯者だね。全く。」

「…はあ。…言いたい事、言わないとね。………本当に、聞き苦しいことを言う。僕との思い出とか、そういうのを綺麗なままにしたいなら。…閉じた方が、いいよ。」

そうしてしばらく間を置いた後、再び口を開く。

「………いいんだね。もう、しゃべるよ。」

「僕が、君に、ずっと、思ってた事。」

「愛してるは、本当のこと。だけど、まだ、あるんだ。」

「…ね。初めて血を吸った時のこと。覚えてる?」

 

「………僕、ね。きっと、あの時から。…いや、その時は自覚は、なかっただろうけど。…どこか君を、僕の物にしたいとか、そういう感じのことを、考えてたんだと思うんだ。………最低だよ、本当。自分で自分が嫌になる。」

「………泣きそうだ。全く。」

「………弁解は、ないよ。これだけだ。後味悪いだろ。だから、閉じた方がいいって、言ったのに。」

顔をようやく上げた男は、泣いていた。明かりが、雫に反射して、かすかにわかる。

「君を、僕だけの人にしたかった。君を、独り占めしたかった。…君と、一生を共にしたかった。君と…同じ景色を見て、同じ食事をして、同じ…生活をして…。」

涙は、増していく。

「………やりたい事、あったんだ。いっぱい。」

つたなく笑顔が出来上がる。泣きながら。くしゃくしゃの笑顔が。

「…いい風にまとめてるけど。本当に、僕にとっては汚くて。言いたくなくて、言いたかった事。…ずっと、一緒にいたかったよ。…これが本当の最期。じゃあね。さようなら。」

男は無理矢理笑いながら、ゆっくり静かに、小さく手をかざした。

 

 

映像は、そこで暗転し。終了した。