かきごおりのお庭。

企画の小説とか書いていきます.

面は暴かれずとも。

大貌博物館地下、財団研究施設。午前の仕事を丁度終え、昼休みに入ったところ。

ああ…疲れた…。最近立て続けにマクガフィンの調査が行われていて…その調査内容、過程と結果…はあ。次から次に仕事が増えていくものなあ。ようやく書類の束を消したと思ったらその量よりもまた増えた束を積み重ねられるのは最早よく見る光景。慣れつつあるのが恐ろしくてたまらない。大体さあ…。

喉から飛び出そうになる愚痴を口を閉じてやり込めながら、肩を小さく回しながら廊下を歩く。いつもの様に食堂へ向かう。今日は誰がいるだろうか。誰とお茶を共にしてどんな話を語り語られるのか、日々の楽しみの一つでもある。この為に午前頑張ってると言っても過言じゃない。

そして食堂の手前まで来るも、何故なのか知らないが人の気配があまり感じられない。外で何かあったのかな。…まあいいか。賑やかも好きだけど、静かで落ち着いてるのも好きだし。

そうして軽い気持ちで入口を超え行った先、何よりも先に目を奪われる何かが、あった。ただ、席に座っているだけの筈なのに。後ろ姿が少し見えるだけなのに、不思議と意識はそれを掴み離そうとしない。魔法でもなんでもない。その人の醸し出すオーラとでも言えば良いのか。今日は、是非あの人と話してみたい。そう思った。足は、彼女の座る席へ向かう。

「…こんにちは。ここ、座っても大丈夫ですか?」

話しかけると、少し呆気に取られたような様子を見せた後、笑顔で返される。

「…構いませんよ。…他にも席は空いている様ですが…?」

「うーんと。変なこと言うようでアレなんですけど…貴女と話したくなってですね。六朗面さんで、合ってますよね?」

「…ふっふ。それはまた、光栄ですね。…ええ。六朗面。ロクでいいですよ、Mr,アボット。」

「あれ。名前…覚えててもらってたんですね。嬉しいなあ。でもズリエルで良いですよ。みんなそう呼びますから。なんならズリーでも。敬語も外してくれて結構です。」

「そうですか、ならお言葉に甘えて…。Mr.ズリエルと呼ばせてもらおうか。こちらこそ、敬語も抜きにしてくれて構わない。改めてよろしく。」

「Mrは取ってくれないんですね…じゃあこちらも、喋りやすく。よろしくね。ロクさん。」

「…キミこそさん付けのままじゃないか。」

「…悔しいので。Mrを外してくれない限りさん付けもやめない。」

「ふっふ。面白い意地を張るな。まあ考えておこう。いつかは外して呼ばせてもらおう。」

「いつか…長そうだなあどうも…。…まあ、良いですよ別に。それよりも、お話をしよう、お話。ロクさんのお話はどれも面白そうだから。」

「ワタシが話すのか…。ふむ。きっと期待に沿う話はあまり出来ないだろうが…それでも良ければ語ろうか。」

「!是非とも!…っと、お話のお供に何か…飲み物は欲しくならない?好きな飲み物とかあればそれでも。」

「ああ、例の魔法か。実際に見るのは初めてか。興味深い…。」

「何だ知ってるの…。そうですよ、例の魔法です。初めて見せた時はみんな驚くから、面白くてね。そっか知ってるのか…。ちょっと残念…。」

「知っていても見たことはない。噂に聞く程度だ。だから尚更に興味が湧く。是非見せてくれ。」

「えっあっはい。そこまで興味を示されるとこっちが驚くなあ…。うん、それで何が飲みたい?何でも出すよ。」

「…そうだな。それでは…」

 

足を組み替え、僅かに口を緩ませ、彼女は言う。

「―――――ダージリンの、ミルクティーを。」

 

 

気付けば昼休みが終わるほど、夢中になって話をしていた。意外と、気さくで話しやすい人だったな。僕の魔法に大きな興味を示してくれて、とても嬉しかった。どこかとっつきにくい印象があるのは、その独特の風貌と、雰囲気からなのか。綺麗でお洒落で面白い人だったから、これからも機会があったら、お話をしたいなあ。いつか服を選んでもらったりも出来るかな。ふふふ。午前の疲れが吹っ飛ぶくらいには、とても楽しかった。午後も頑張れそうだ。ありがとう、ロクさん。何となく特別に思える、そんな昼休みでした。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――そして、天照神国。審判の、時間。

感情も無く淡々と響き渡るアナウンス。それは、彼女の審判の決定を告げるもので。投票による決定は絶対であるが故に、その死は確定される。財団の、世界のために死ねるだなんて大層御立派な名誉とともに。思わず、彼女を見やる。しかし、自分の思っていた様子とは全くそれは違っていて。

まるで、こうなることを知っていたかのように。待っていたとでも言わんばかりのように。流れるように制服を脱ぎ捨て、団員証を下ろす。

「…私か。」

「研究員らしく、”これは実験だ”とでも言っておこう。」

躊躇いも見せず、ヒールを鳴らし扉へ向かっていく。ランウェイを歩くように、それはそれは見惚れる程優雅に。

「脳内は凪いでいるか?」

艶のある短い黒髪を揺らし。

「心中は乱れているか?」

後ろ姿を見せ、扉の一歩手前で立ち止まり、顔だけを振り返らせ。

 

「―――パリは、燃えているか?」

それはまるで、何かを嘲笑うような表情で。僕の知る六朗面という人とは、別人のような顔を見せたその人はただ笑って、思わせ振りな言葉を残し、部屋へ進んでいった。

僕の頬を、静かに汗が伝っていった。

あの人は、一体誰だ?

とても形容しきれぬ悍ましさを、その身に感じていた。

 

 

 

 

 

そのすぐ後に、同じ運命が待っているとも知らずに。