かきごおりのお庭。

企画の小説とか書いていきます.

It's time to dance with Blade.

昼下がり。曇天の下。鬱蒼とした、人気のない路地の、どこか。そこには彼が普段見せる様子とはまるで違う戦いが繰り広げられていて。

 

――――――一時間ほど、前のこと。

夥しい血で彩られた狭い道。死体が道の隅に散乱する中をひと仕事終えたように佇んでいたのは、白髪の男。いつもの様に、ツヴァイクロイツを模したバッジを砕いていた。漸く最後の一人のモノを踏み潰そうとした、その時。

後方から何者かが凄まじい勢いで突っ込んでくる。ぶち当たる寸前にその存在に気付くも、その反応は十分とは言えず。咄嗟に構えた軍刀に剣のような物を叩きつけられ、鈍い金属音が鼓膜を揺らし。そしてその衝撃に思わず後ずさる。ブレる視界の中、揺れる赤毛の三つ編みが見えた。

軍刀を持っていた手が、僅かに痺れていた。

 

「…あァー?何だよ、反応できんのかよ…。」

自分に対しその刀剣を振り下ろして突撃してきたであろう人物が不満げに口を開き、片手で刀剣を構え直す。制服から見るに、国家保安部の者か。…いや、もっとどこかで、見たような…。

「…ハッ。いきなり不意打ちかましといて情けねえなァ?何だよテメェ。後続か?」

「…後続ゥ?彼処でくたばってる野郎共の?んな訳あるか。そういうお前は…オレンジか?の割には人間にしか見えねえな。」

「’アー…。どうせテメェにゃ言ってもなあ…。…あのクソババアはキレてるか?」

ヘラヘラと笑う男が思わせぶりに言った一言。それは彼女の中でその男の正体を一つの結論に至らせる。

「…!…ああ…。お前……ババアが言ってた野郎か。」

「どうも馬鹿じゃあねえみてえだな。…で、どうする?殺すか?」

挑発するように、両手を広げ目を見開き口を大きく開く。

 

…あの刀剣の曲がり。天照の…刀、だったか。資料でしか見たことは無いが、特徴的なその反りと、鍔。確信を持つには十分な材料で。装飾、持ち方や佇まいから見るに相当に慣れていることが分かる。国家保安部の中でも持ってる奴は数えるくらいしか居なかった。実際に殺り合うのは、初めてか。

 

構えを崩し隙を見せるようにしながらも、相手の一挙一動に気を払う。

 

 

風が、長く垂れた白髪を揺らす。互いの外套を揺らす。……そして、風は止み、静寂が生まれる。

 

 

 

「殺すに決まってんだろ。」

目にも留まらぬ早さで慈悲のない言の葉とともに踏み込んでくるソレを、今度こそ真正面から受け止める。重なり合う二つの刃。互いの力は拮抗し、カチカチと金属音を鳴らす。そして交わる殺意を込めた視線。それはほんの数秒。その一瞬は、殺し合いの始まりの鐘を鳴らすには十分すぎるほど長い時間で。

「お前は殺す。逃げた馬鹿共ならまだしも、お前は私らの顔に泥を塗りたくりやがった。だから殺す。」

瞳孔の開いた眼と気迫でこちらを睨みつけ、怨みにまみれた無情な言葉を淡々と綴る。落ち着きながらも、隠しきれぬ憤怒がその身から滲み出ていた。

「…ハァァ……殺れるもんなら殺ってみろよ、クソアマァ……!!」

剥き出しの殺意に嬉しそうに口角を吊り上げ、昂った息を漏らす。軍刀を持つ手に力を込めて、こちらを押し込めようとする赤髪の女を弾き飛ばす。二人の間はまた広がるも、先程よりもそれは短く。互いに駆け出せばまた身を焦がすような競り合いを起こしそうな距離。

弾き飛ばされたその女は、脱力し、姿勢を低く、刀を構え。そして静かに相手を見つめ、呟く。

 

 

「さァ、征こうぜSchatz………」

 

 

 

『狩りの時間だ。』

 

 

紅の眼が刀身とともにほの暗く、煌めいた。

 

 

 

 

 

To be continued…….

 

 

名×さん宅のワンダ・ガーゲルンさんをお借りしました。ありがとうございました。