青色に目が眩む
どこまでも広がる透けるような青空と、陽に照らされ白く波打つ蒼海の間の地平線。
確か、4年くらい前。自分が育ったこの場所を離れるまで、毎日のように見ていた景色。離れる前は、別にどうって事ないなんて思っていた。離れてから少し経てば、一目見たくてたまらなくなった。
きっとあの空と海に、恋をしていて。
……なんて。車窓から見渡す景色と、年少の記憶の中を覗きながら。開けた窓から流れてくる、生ぬるい風に髪を揺らされながら、思っていた。
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4月、鯨津高校、廊下。
教室への入り方を、担任と打ち合わせして、後は合図待ち。
近くの海の潮の匂い。それぞれの教室でのHRの会話、木の枝葉の擦れる音。
あらゆる事が懐かしいのに、新鮮で。どんな子がいるかな。どんな物があるかな。何ができるかな。何が待っているかな。かな、かな。
そんな調子で物思いに耽っていたら、すぐ横の戸が開いて。先生が顔を出して、手招きをした。モノトーンのブレザーの皺を軽く伸ばして、群青のタイを軽く締めて、小金の前髪を整えて。敷居をまたぐ。
「それじゃあ、挨拶を。」
促されて、軽く咳ばらいをして。頑張って。肩の力を抜いて。声を震わさぬよう。視線を下に向けぬよう。手が強張ったの感じた。さあ朗らかに、笑って。
「……はじめ、まして。
春からこの鯨津高校に、転入することになりました。
森部、湊って言います。
―――――よろしく、お願いします。」
僕は、俺は。手放したくない時間の中を、もう一度ゆっくりと、歩き始めた。