かきごおりのお庭。

企画の小説とか書いていきます.

カバーガラス

初めて訪れる雑貨店。ドアを開いて、迎えるのは聞いたことのないアイドルソング。宇宙を模した壁紙が四方に敷かれた、閉め切ったうす暗い店内が少し蒸し暑い。


CDが見たいと、自分を連れてきた大豆生田は多趣味の様で、クラスメイトにも顔が利く。転入して間もない自分に仲良く接してくれるのもその人柄あってのものだろう。バスケ部所属……のはずなのになぜかマネージャーをしている。その特徴的な長身で活躍するのは想像に難くないが……。
「森部、本も見てく?」
不意に名前を呼ばれて返事が上ずる。ああまたやった、呆れてしまう。考え事をしていても視線は無意識に書物に向いてしまうようで。物心ついた時からの習性は変えようもないのか。察しの良い彼に笑顔を向けて言葉に甘える。


『友達の選び方10選』と赤文字で書かれた帯が目についた。薄っぺらい本で、そのまま見送った。友達の作り方すら分からないのに、選ぶなんておこがましい話。


陳列された本を眺めていると、愛用の眼鏡と違う見え方に少し眩む。閉じ込められた世界とはまるで違う。広さも、景色も、その意味も。境界線のあやふやな世界で、地に足をつけることの難しさを思い知る。

本が好き、とはまだ大豆生田には言っていない筈だった。それでも彼が自分に声を掛けたのは、好みを透かして感じ取ったから。

見なくても良いものを見ようとすることがいかに勇気のいる事か。自ら関わることがいかに手間取るか。透明なガラスのその先は、覗き込めても触れることはできない。回り込まねば、存在に気付いてもらえないことだってある。

不透明にした自分を透かされることに怯えがあった。でも実際にはどうだ。悪い気分じゃない、愛想笑いの『俺』ではなく、喜びを隠せてない『僕』がいる。

……少しずつでいい、少しずつ。隠したものを白日の下にさらして、笑える日がきっと来る。自分でその日を作るんだ。

 

自分を待つ彼の所へさっさと戻ろう、特に目ぼしい物もなかったから。別にそれでもいいだろう。本なんかより嬉しい事があったのだ、収穫は上々。こういう日が続けばいい。楽しくてたまらない。

自分の知らない君を知れますように。

 

 

 

断飯さん宅の大豆生田太陽くんをお借りしました。

ありがとうございました。