Speech is Silver,
子供の集まる中、怒号が飛び交っている。
槍玉に上がるのは、無崎という名前。大人しくて、無我で無口で無害な彼女。
なんてのは唯の猫被りだった様で。彼女は確かに、鎌倉ねむを屋上から突き飛ばした。僕は目に焼き付けた。その腕の力の入れ様も、覗き込むような視線も、無表情の暴力的な祈りも。
でもね。なんかおかしいんだよ。あの時の鎌倉ねむは、突き飛ばされて落ちていった筈なのに。
僕にはどうしても、自分から望んだように見えた。翼をはためかせて足で地を蹴ったようにも、巨大な渦に吸い込まれて行くようにも。
彼女が落ちていくのを見て、僕は役者が舞台から降りる時の気持ちを考えた。達成感?虚しい?恍惚?
誰かが彼女の名前を叫ぶのが耳をつんざいて、考えは泡に消えたけれど。それでも充分に、何かの壊れていく音が聞こえた。
僕の青が滲んで、濁って、ぐちゃぐちゃに混ざって。キャンバスの余白は息付く暇もなく塗り潰されていく。
戸塚が鎌倉に詰め寄っている。その間に中村が入り込んで、鎌倉を庇う。そして無崎は糾弾され続ける。当の本人は、黙りを決め込む。
過ぎったのは、失望と、諦めと、強い憎しみと。
語るだけ無駄だ。口を噤もう。
戸塚の憤る怒声も、鎌倉の被害者ヅラした身勝手な立ち振る舞いも、中村の幼稚な身内庇いも、場を引っ掻き回す無崎も。
あらゆる事が耳障りで、目に毒で、癇に障る。
もういい。もういいよ。『まさかそんなこと』は聞き飽きた。実際にしてるんだから、現実を見なよ。それはもう、貴方が勝手にレッテルを貼ってたんでしょう。化けの皮が剥がれただけなんでしょう。
ちょうど彼らの事が心底どうでも良くなった、今の僕みたいにさ。