わるいことなにもしてない。信じてくれ。
「…。暇…。」
甘めのココアを飲みながら。今日は甘いものの気分だったから。あと調子も良かったからたまにはと思って。まあ暇なのは仕事サボってるからなんだけど………。うん、まあ良くないし見られたら怒られるor呆れられるのは確定なんだけど。無性にやる気が出ないときってあるじゃない。それだよそれ。そういうことにしといてほしい。
…だれかこないかなー。
あ。リネットちゃん。片目隠れ仲間の子。仲間って言ったって僕が勝手に意識してるだけであんまり話したこともないし、せいぜいティータイムで飲み物を出してあげるくらいかな…。どっかで仲良くなりたいとはずーーーーーっと思ってたんだけどいつも幼馴染?の二人と一緒にいてね。あの微笑ましい空間に入り込むのはなんとも無粋のように思えてしまって。そういう訳で見てるだけに留まってるわけなんだけど。……ずっと仲良くなりたいと思って傍からずっと見てる?これ事案じゃ…。
…あれ。足音消えた。まさか転んでないよね。………アーッ!大変!!
………
「ごめんなさい、助かりました…書類集めとか、いろいろ…ありがとうございました。」
「ぜーんぜん大丈夫だよ。近くにいれて良かった。怪我はない?あったらそこら辺に救急箱みたいなのもあるはずなんだけど。一応魔法だってあるし。平気?」
「あっ怪我はまったく…!大丈夫です…!!じゃ、じゃあ私はこれで…。」
「あっあっあー…。ちょ、ちょちょっちょ待って。あのーーー…さ。もしリネットちゃんさえ良ければお兄さんの話し相手になってほしいなーなんて…。あのーほら、リネットちゃん調査員じゃん…?調査員の人っていつも外出てるイメージあって、あんまり話せる機会ないからさ…。…なんか怪しい誘い方だけど…どう?たまには、お茶でも。」
「え…。あ、その…。」
あ、やっばいこれ。ちょっとまくしたて過ぎたかも。これはワンチャン逮捕まであるぞ。ちょっと緊張してるのかな…。うーん。あれやるか。
「…リネットちゃん。ちょっとこのスプーンの先見てて。」
目線を彼女の片目に合わせ、視線の先に差し出したスプーンの杖に、静かに祈る。
その瞬間、木製の匙の先から出てくるのは、様々な色の水。光を反射して煌いている。それはまるでシャボン玉のように、宙に浮かんでいく。逆三角形状に、その水玉たちはふわりと。虹色に輝くそれらは天井に当たって弾けていく。それがまた儚く美しく。最後の泡が霧散した後、二人は目を合わせる。
「…どう?ちょっとは落ち着いた?」
「~~~~~すごく綺麗でした!!あんなことできるなんて、知らなかったです…!」
「そう?それは良かった。そりゃまああんまり人には見せたことないからね~。あ、ここで使ったってあんまり人に言わないでね…。もしかしたら怒られるかもしれないからさ…。」
「あ、分かりました。…二人くらいなら、言ってもいいですか?」
「その二人が誰かにもよるんだけど~~~~…。まあ、君の思ってる二人が僕の想像してる二人なら、たぶん大丈夫じゃないかな。いいよ、うん。」
緊張はなんとか解れたみたいだ。よかったよかった。
幼馴染の話、財団の印象の話、服の話。あと先祖の話もしたかな。慣れてしまえば意外と話せる子なのかな。意外と財団にはそういう子が多くて。なんとかそこら辺の懸け橋になれたらなんて、自意識過剰かな。でも今回はまあ、リネットちゃんとどうにか仲良くなれたかも。また一歩前進かな。彼女の好みらしいミルクティーを淹れて、たくさんお話をした。
……
「…もう二時間くらいも経ったのか。早いなあ。こんなおサボりに付き合わせてしまってごめんね。…とか言いながらももう一つお頼みがあるんだけど、いいかな…?」
「…?なんですか?」
「…狼に、なってみてほしいんだ。その、一回見てみたくて。」
正直これが第二の目的。仲良くなりたいのもあるけど、狼も見たくて…。ゆるして。
「…いいですよ。あんまり、期待しないでくださいね。…それ。」
リネットちゃんが一瞬輝いたかと思えば、瞬きをしてしまった次の瞬間には、もう。
「うわあ…!!!早い…!!!ていうかその…可愛い…!!!!!!」
「あ、ありがとうございます…。ちょっと恥ずかしいですね…。」
「その状態でも喋れるんだね…ていうか……もっふもふ…。…流石に、抱き着きはできない、から…。…撫でても…いいですかね…?」
思わず敬語になる。だって、撫でたいじゃないか。見てくれよこのかわいさを。やばいだろ。理性をとどめてるだけでも褒めてほしいね。片目がこの状態でも隠れてるとことかもう最高にチャーミングだろ。本当はもう存分にもふりたいが抱き着きでもしたらもう確実にクビだしパクられる。世間からは散々な事を言われるだろう。ていうか財団の名が落ちる。…あれ。そういう事考えたら僕消されるのでは?
「…大丈夫、です。はい。ちょっと、不安ですけど…。…変な事、しないでくださいね…。」
「いや、しない!!!!!!まじで!!!!!!神に誓ってもいい!!!!!」
「…ふふ。どうぞ。」
そう言って頭を僕の手に持ってくる彼女。やだ!!!見かけによらず大胆じゃないの!!!!!んんんんん!!!!!!!
「アッ…ウッ…うっぐぐ…しあわせ…うっ…しあわせ…。この感触すき…。」
変な声が出始める。なんか止められない…。しあわせ…。
「だ、だいじょうぶですか…?あ、あの、もうちょっと優しくなでてもらってもいいですか…。こわい、です…。」
「あっ、ご、ごめん。あんまりなれてなくt「ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!なにしてんだてめー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
耳をつんざく叫び声。入口からか?てかそうかこの構図なかなかやばいのか。気付くの遅くなった。
「てめーうちのリネットに何してんだァ!!!!!!!!!!!あああ!?!!??!?!?この………あー………金髪ロン毛野郎!!!!!!!!!!!!!!」
そう言いながらとんでもない格好とすさまじい勢いでこちらへきて僕の胸倉を掴む褐色美女。…ああ、エオリカさんか…。ていうか今名前出なかったろ。ズくらい出てよ。
「あっあっあっああああああああああこれにはすごい深いわけがあってえええええええええええええええええええあああああああああああああああ」
勢いに押されてよく分からないことを口走ることしかできない。よく見たら後ろでナタリアさんがリネットちゃんを保護するように連れ出してる。違うんですよ。本当に説明すればわかるんだ。頼む。
「ああああ?!?!?!?!??!なんだよ訳ってェ!?!?!?あんのかそんなもん!!!!!!!!大体あったとしてもてめーからは聞かねえよ!!!!!!!後でリネットに聞いといてやるからよ!!!!!!!!!!!じゃあな!!!!!!!!!!!!!」
すごい剣幕でまくしたてられ。ようやく解放された。…えんざーい。ちゃんとおはなしきいてよー。言葉は出なかった。なんかもう驚き過ぎて。ナタリア先生…僕これ後で職員室ですかね…?リネットちゃんが最後まで申し訳なさそうにしてたのは見えたけど。なんとか弁解してくれるかな…。
…でもまあいいか!!!!!!!!!可愛かったし!!!!!!!!!頭撫でられたし!!!!!!!!!!!!!!!やる気出たよ!!!!!!!!!!ありがとうね!!!!!!!!!!!!!!!
色々投げ捨てた頭の中で無理矢理結論を出して、自分の研究室に戻る。あの二人ともまた、お話しできるといいなあ。和解、させてくれないかな…。…できればもう一回、頭撫でさせてくれないかな…。
藤田ミハナさんのリネット・ナイトリーさん、凪凧さんのエオリカさん、お名前だけですが幻さんのナタリア・E・ラビットフッドさんをお借りしました。
ありがとうございました。