かきごおりのお庭。

企画の小説とか書いていきます.

Ashley's Day.

薄くらい、仄かな明かりの照らすバーカウンター。

目に眩しいライトブルーが、陳列されたボトルを色鮮やかに照らす。

ジャズ調の激し過ぎないBGM。

 

……なんともまあ、暇な野郎も居たものだ。


待ちかねた休日に、そんなお気に入りのバーで一人悠々と立ち飲みを楽しんでいたところに横槍を入れてきたのは。

 

「隣、良い?」

調子の良い様子で声を掛けてきた、身なりの整った男。
上下をネイビーストライプのスーツでキメて、綺麗な白い歯を見せる笑顔は鬱陶しい程に眩しい。
一瞥して無視してやれば大抵の男は諦めるものの、此奴は何故かなお居座る。それどころかハキハキとした声で自分の良い所をアピールし始めた。
この靴は質の良い革を使用しているだの、腕時計に幾らかかっているだの。誰が聞いたんだよ。


無視し続けること約十分。それでもまだ閉じることの無いその口。根気あるね。
まあでも、BGMにしては少し喧しすぎるかな。

 

 

「……へー、いい趣味してんね。」
少し遊んでやることにした。
やっと来たかと嬉しそうな顔で、勢いを増す雄弁な語り。

『そうだろう!?』なんて。可愛いね。

 

うんうん、と頷きながら男の"おはなし"を聞いてあげる。
あの感じに似ている。ほら、自分より何歳も離れた歳の、従兄弟のお話を聞いてあげているとき。
子供ながらの可愛げは、癒されるものがある。

 


尤も、それは相手が子供だったらの話だけれど。

 

 

「ねえ。」
頃合いを見計らって、話を遮る。
そろそろ顔もイイ感じに赤くなってるだろ。多分。

 

「ちょっと、飲み比べでもしてみない?」
食い付きが弱いな。

……態とらしくアピールしてみようか。

 

「先に潰れた方が負け。勝った方は負けた方を好きにしていいって事で……どう?」
頬杖をついて、流し目で、それっぽく。

 

 

鼻息の荒くなった男から快諾を得た。

ありがとね。

 

 

「ご馳走様でした。会計、此奴に付けといて。」

​最後になるだろう一杯を緩やかに喉に流し込んで、ついにカウンターに突っ伏して動かなくなった男を指さして言う。

頷いた店員にニコリと微笑んで、店を後にする。

タダ酒は良いね。なんせ向こうから寄ってきてくれるのだから。

 

薄闇から外に出れば、色とりどりの人工的な明かりが一面を照らしている。それに合わせて騒ぐ人も、そこらじゅうに。

 

まだまだ夜は長い。次は何処に行こうかな。