星の降る夜。
冷たい空気が肌に刺さる頃。真夜中の、ブリテンのどこか。
「星って、キレーなんだな。」
手を繋いで、後ろを忙しなく着いてくる少女。夜空を見て、足を止めて感想を漏らした。
「ああ……そうだな。星は綺麗だ。何時もそこで輝いている。少し憎らしいくらいだ。私達が変わっても奴らは変わらん。」
語るものと共に吐き出される息が白く揺らいで、闇に溶けて。溶けた先には、無数の光。
僅かに蒼く見える黒い空に、夥しい数の星が遍く敷き詰められる。同じように見えても、同じ物はひとつとして存在しない、それらに魅せられる。星だけが立てる舞台。そこに不必要な物は在らず。余計な物は存在せず。
手の届くことは無い遥か天空の領域。…仮に手が届いたとしても、自分には似合わないのだろうと、自嘲じみたことを心の中で呟いて笑う。
「なあ、ジジィ。」
「ん。」
「これは……この星ってか、空。どこまでも広がってんだよな?しかも動く。」
「そうだ。前に教えたな。まあ……動くと言うとちょっと違うが。」
「……この向こうには、何があるんだ?」
「……さあな。私も知らん。今見える景色が無限に広がっているのかもしれんし、別の世界と繋がっているのかもしれない。若しくは何も無いのかもしれん。説だけならそれこそ何通りだってある。」
宙を見上げて、そよ風が吹いて。髪の毛を僅かに揺らす。
「へえ……ジジィにも知らない事あるんだな。」
「勿論。むしろ知らない事の方が多い。というかまあ……興味のないことは特に知ろうとは思わん……。」
「あー。分かるぜ。俺もどうでもいい事聞いてる時寝ちまったりするからな!」
「本当にな。お陰でお前を叩く時の力加減が腕に染み付いて離れん。」
軽く頬を緩ませながら、屈託のない笑みをした少女を軽く小突く。当たり前だが若干不満げにしている。知った事か。
…他愛もない会話だ。思わず笑ってしまうほどの、程度の低い会話。それが不思議と、心地よくて。
この娘が来てから、そういう機会が目に見えて増えた。人が居れば話す事が増えるのは当然といえば当然だが、ここ迄とは思っていなかった。存外馴染むもので。
たかが小娘一人、と最初は侮っていた。けれどなかなかどうして、根性がある。なんなら素質だってある。磨けば光る原石。無限の可能性を秘めている。
これだから人間を好きになるのはやめられない。たまには褒めてやろうか、なんて思うのも彼女の影響なんだろう。
「…小娘。」
「……なんだよ。」
「……いや、やっぱり何でもない。忘れろ。」
「はあー?何だよそれ……気になるだろー!おい!」
「だあ鬱陶し……やめろ。忘れろと言ったろ。……ああ、ほらアレ。上を見てみろ。」
「あ?………うわ、すげえ……。」
身を乗り出して絡んでくる少女を片手で抑えながら、もう片手で空を指さして促す。
促しながら自分も顔を上げた先には、夜空に尾を引いて流れ落ちていく一筋の光。それもひとつではなく、至る所から矢次ぎ早に星の雨が降り注いで。
「流星か。久々に見たな。」
「すげえ……。」
目をまん丸にして、輝かせて。釘付けになって固まっている少女を横目で見て、クスリと笑う。こういう所ばかりは可愛げもあるのにな。
押し寄せる流星の波。現れては消えて、燃えては墜ちて。その煌く灯火を儚く散らしてゆく。
綺麗だ。息を忘れてしまうほどに。……そこに哀愁も重ねて感じてしまうのは、年寄り故なのか。一瞬輝いては、消えていく。
何処と無く、人間の様にも見えてしまう。思い込みが激しいのは悪い癖だ。
つい、傍の少女に目をやってしまう。
……考え過ぎだ。いくらなんでも。心配性も拗らせると自分でも呆れるレベルになるのか。自分が居るのだから下手な事はさせないししない。
ただ、時間が限られていることに違いは無いのだと。そう確信する。ならばせめて、いつ終わっても悔いはないように。
なりきさん宅のミント・アルマンさんをお借りしました。
ありがとうございました。