かきごおりのお庭。

企画の小説とか書いていきます.

The Boundary of Mirror

砕かれるような金属音。嫌な感触のあった足底を身体を竦めながら見てみれば、硝子の鱗粉がこびりついていた。金のフレームはひん曲がり、可笑しな曲線美を描く。

別にわざとでは無かったけれど、一度壊してしまったなら仕方が無い。もっと壊してみようか。靴底を再度地に押し付けて、ぐりぐりと捻るようにまたソレを踏んで、心地よい不快感を楽しんでみる。

 

こんな薄っぺらい透明のガラスを2枚無くしたところで、別段困ることは無い。多少視界がボヤけて、正確性が落ちるだけだ。完全な正確性などは存在しないのだから、憂うことでも無い。

……ああ、でも彼の顔がハッキリしないのは少し苛立つかもしれない。大きな黒い目が印象的なその顔立ちは実に端正なものであるので。柔らかそうな頬は食欲すら唆られるようで、涎が舌の上で浸透していく。

 

惚気とは別に、一つの興味が頭の中を掘り進んでいる。

例の計画。異界人。西京と鏡合わせの都、東京に住む彼ら。しかも学生、十七歳の新鮮な肉体。五十人余りの一挙捕獲を目標とした荒唐無稽な作戦。面白半分で参加していたものの、その存在は確認されたらしい。

彼等の混乱及び分散を防ぐ為、現在では無用な手出しは禁とされている。まあ準備は念入りに、という事なのだろう。抜け駆け対策なのかとも思うが。

 

 

 

守るわけないじゃん、そんなの。

 

計画の解説をしていた副主任の凝り固まった顔面筋肉を嘲笑いながら、研究所の駐車場にあったトレーラーのエンジンを掛けた。アクセルをベタ踏む足に若干の違和感がある。埃がまだ残ってたかな。

悪く思わないで欲しい。元々義理も情もない他人の言う事を聞く質ではない、これが私なんだよ副主任。人の決めたルールは気に入らないんだ。自分を縛るものは自分で選ぶ。

例えばこんな風に。限界、証明​───────​─────

 

世界の壁すら、理すら侵掠してみせようとも。それを可能にするのが私達だ。格好つけてる訳では無い。至極当然な事だ。太陽が上るように、月が追い立てられるように。己が欲求を満たす為に、犠牲を厭う筈もない。研究者の養分は研究とそれに纏わる事でしかない。

結局どこまで行ってもエゴイストの枠を抜けられないならば、エゴイストの名を欲しいままにしよう。

君達に会えるのが待ち遠しくてたまらない。思わず城砦をぶち抜いていきそうだよ、震えてしまうね。

 

助手席で揺れる黄ばんだリスト。

 

蛍光色のマーカーで引かれ、強調された名前が一つ。森部 湊。血走るような赤いラインで装飾されたその名前が、ずっと際立っていた。