色に出ず。
修学旅行に行く前のいつか。
帰りの時に、君を待ってた。
僕は夕暮れを光源にして本を読んでいて、座っていた階段が硬くって。首が疲れ出した頃に君はようやくやってきて、僕を驚かして。
しばらく見てたような口振りで笑う君に、また驚いて、少しムッとして。
その後に君が言ったことに、しばらく頭を振り回された。見てるのが面白かったって?本を読んでるのがかっこいいって……??
家に帰って、ご飯を食べて。お風呂に入って、自分の部屋で本に囲まれて寝てる時も悩んでた。
お風呂の中でぶくぶくさせながら、もしかしたら遊ばれてるんじゃ……!?いや、でもみーちゃんだし……、とか、とか。
今にして思えば、多分深い意味は無かったんだろうね。本当に、言葉そのままの意味合いだったんだろう。すり抜けるくらい、透明な言葉。
ずーっと前って、どれくらい前だったのかな。前にもそんなこと、あったかな。
『変わろうとしてるのは偉いけど』
『そのままでも良いとこいっぱいあるの 忘れないでね』
透明な言葉が、僕自身を不透明にした瞬間でした。
良いとこってどこなんだろう。どこだったのかな。そんな事聞けないよ。多分、僕はもう変わっちゃったよ。きっと君の言う『良いとこ』も、見つからないまま埋もれちゃった。君の言葉を無下にした自己嫌悪でぐちゃぐちゃになりそうだ。
ねえ、みつる。僕、君の事何も知らないよ。何がみつるで、みつるが何なのか知らないよ。
あの日のあの瞬間、何もかもを思い出せる。
君の子供のような笑顔も、
君の夕影に透けるような黒髪も、
夕焼けにぼかされて溶ける輪郭も。
君の奥でピントのぼやけた街も、
さざめく海の音も、
そこから運ばれてくる柔らかな潮の匂いも、
体育館で響く部活の掛け声も、
春の優しい温度も。
僕の嫌いな空の朱も。
全部。全部、全部――――――――――――――――――。
――――――――――――――――――だから。決めた。何を捨ててでも、何を犠牲にしても、誰を見放しても、誰を裏切っても。
お父さん、お母さん、先生、たくさんの友達。
ごめんなさい。
今まで悪い事も何もしてこなかったから、どうか許してくださいなんて言いません。
良い子で過ごしてきました。我慢はいっぱいしました。努力もたくさんしました。いつか振り返った時に、悔いのない、恥のない人生になるようにと、歩いてきました。
でも、でも。
きっと最初のわがままです。そして最後のわがままです。
ありがとう、ございました。