かきごおりのお庭。

企画の小説とか書いていきます.

月故想

 その紅瞳の先には、彼女の寝顔があった。

 何の危機感もなく、無防備な姿で眠る彼女。綺麗に生え揃う長い睫毛に、張りの有りつつも柔そうな頬。視線を少し下に落とせば、少し赤みのある良い肌色をしたすらりとした首。少し牙を伸ばせば、簡単に裂けて、照りのある血液が首筋を沿い伝うのだろう。他でもない、身体中を潤す少女の生き血が。

 

 「……、『どうしてこんな奴に着いてきたのか』、だとか。お前は考えたこと、あるのかな……」

  寝ている彼女に、きっと届きはしないであろう問いが降る。
穏やかに寝息を立てる、その頬に被さった髪を横に分けて、手を添えるように撫でてみる。存外寝つきが深いのか、起きる気配も見せなかった。

 

 「………お前と私は違うな。この形以外、きっとほとんどが違う。」

 

 生き方も、価値観も、考え方も、寿命も、この肌の温度も。

 

 「……直接言えば、馬鹿にするだろうな……。」

  歳を喰ったからか、似非人として馴染んできたからなのか。頭を過るのは、良くない事ばかりで。それでも君は、きっとこの暗がりすら笑って吹き飛ばしてしまうだろう。

 

 「……、フフ。」

  憂うまま眺めていれば、そのあまりに能天気な姿に思わず笑みを零してしまう。ただ眠っているだけで私を笑わせるとは、やはりやるものだ。成長は、侮れない。

 

 ――――太陽のような君よ。今はゆっくり、月に見守られて眠ると良い。

 

 「おやすみ、ミント……。」

 前髪を左右に分けて、露わとなった額に唇を落とす。ささやかな愛情表現だ、私はこっちの方が好ましい。
あとは音を立てないように、静かに寝室から去っていく。夜明けを待とう、彼女を見送ったら、また少し眠ればいい。まだ暗い窓に目をやりながら、上等なソファに深く腰掛ける。

 

 ――――もし、また太陽に灼かれてしまう時が来たら。その時は、君のような太陽に灼かれてみたいものだ。
 

 きっと苦しくなくて、暖かく眠れるだろうから――――――――