かきごおりのお庭。

企画の小説とか書いていきます.

遺した物。残された者。

ひとつの、ビデオレター。映像記憶魔法が用いられたあまり使われることない珍しい品。

カバーには何も書かれていない。最近撮られたもののようで、まだどこか新品らしさがある。

 

再生、してみた。

 

 

「…………撮り始めてる、ね。」

そうして現れたのは、長い金髪の男。場所は、緑豊かな草原を背にする丘。横に長い椅子が置かれ、落ち着くには最適の場所のようだった。遠くに見える特徴的な山脈の形から、ハイランド辺りであろうことが想像できる。

男は、膝に手を当て姿勢を低くして言う。

「………今から話すのは、僕が、死んだ後のこと。本当は手紙にしようかな、と思ったんだけど。…なんか、しんみりしちゃうでしょ、必要以上に。だから、こういう風にしたよ。せめて、後ろの綺麗な風景で楽になってほしいって思って。」

そこまで言って、一息置いた。

「…言わなくてもわかると思うけど。これは、ロゼール・レッドフォード。お前宛だ。もし他の人がこれ見てたらマジで死ぬ。いやこれが見れてるってことはもう死んでるんだけどさ。………どうか、僕が消えて、お前も消えてしまう前に、これを見てほしい。………なんて、ここで言っても意味無いけどね。これが届く前にお前がどこかへ行っていたらおしまいだしね。そうならないように、ちょっと特殊なことはしたけど。………まあ、許せよ。」

男は、椅子に座り、体を前に傾け、両手の平を合わせ、こちらを見る。

「…まず、最初に。…子供の頃の約束、覚えてるかな。ずっと、君と一緒にいること。つい最近その約束は更新されたけどね。あ、最近って、あれね。僕が死にかけたやつ。お前のせいだよ。全く。………いや違う、脱線したな。そう、ずっと一緒にいること。その約束を、違えてしまうこと。本当に、申し訳なく思う。多分死ぬ間際の僕もそう考えるだろうから。許して欲しいなんて言わないよ。むしろ許さなくていい。…ただ、そう思っていたこと。それだけは言いたくて。ごめんね、伝えること、できなくて。」

「…次。僕が消えて、お前がどうするか…。……大方、予想はつくよ。言わないけど。………どうか生きてくれとか、そんな、呪いじみたことは言えない。お前の生きる道だ。好きな様に、すればいいさ。後を追うも良し、思い出に浸り立ち止まるのも良し。………僕のことなんか忘れるのも、いいね。…本当に思ってる事だよ?………まあ、欲を言えば、たまに思い出してほしいかな、なんて。…余計な事言ったね、ごめんね。」

「…次、はー………ああ、そうだ。孤児院のこと。僕がずーっとあそこに財団の給料の一部送ってるの、知ってるだろ。僕が死んだら、多分多額のお金が、国から出てくるはずだ。お前さえよければ、孤児院に送っといてほしいな。」

「…これで、最後。…………君のことを、ずっと好きだった。聞き飽きただろうね。でも、何回だって言うよ。たとえ君が耳を塞いでも。口を噤み、瞼を閉じようと。……………愛している。ロゼール・レッドフォード。君は、僕の愛した大切な人。…色々、言ったけど。…君の幸せを祈っている。君との思い出が、僕の冥土の土産だ。ありがとう。…………これで最後だ。さようなら。」

その言葉を笑顔とともに言い終えて、男は席を立ち、画面の外に消えて行く。

 

 

 

映像は、まだ続いている。